マンションが共有の場合、共有者に滞納管理費を全額請求できる?

区分所有マンションが共有名義になっている場合に、所有者が管理費や修繕積立金を滞納した場合、マンション管理組合は共有者に対して、滞納管理費等の全額を請求できるでしょうか?

例えば、共有者2人の持分が2分の1ずつの場合、共有者2人はそれぞれ持分割合に応じて2分の1ずつの管理費支払い義務しか認められないようにも思えます。

しかし、これでは管理組合としては滞納管理費の回収が困難になってしまうので、共有持分に関係なく、共有者に滞納管理費の全額を回収できるかどうかは重要な問題です。

そこで、本記事では、区分所有のマンションが共有になっている場合、共有者に滞納管理費を全額請求できるのかについて、マンション管理費の回収業務を多く受任している弁護士が解説します。

また、共有者間の内部的な合意が管理組合に対してどのような影響を持つのか、離婚や支払い責任の主張が通用するのかなど、具体的な事例や裁判例を交えて解説したいと思います。

マンションにおける滞納管理費の請求に関する疑問や不安をお持ちの方(管理組合様や管理会社様)は、ぜひ最後までお読みください。

1 共有名義の区分所有マンションの滞納管理費、誰に請求できる?

マンションの管理費が滞納された場合、たとえ部屋の所有者が複数いたとしても、管理組合が誰に請求できるのかは明確に定められています。

持分の大小や個別の事情ではなく、法律上のルールに基づいて請求が行われます。

1-1 共有者全員に全額請求が可能

共有名義のマンションでは、各共有者が区分所有者としての責任を負っています。

そのため、管理費が滞納された場合、管理組合は共有者の誰に対しても、全額を請求することが可能です。

たとえば持分が2分の1ずつであっても、どちらか一方に対して滞納分すべての請求が認められます。

これは管理費が共通の債務であるという考えに基づいており、請求の際に持分割合で按分する必要はありません。

共有名義である以上、全員が管理費の支払いについて連帯責任を負うのです。

実際に、裁判例でもマンションが共有名義になっている場合、共有者全員に対して管理費の全額を請求することができることが判示されています。

裁判例1:東京高裁平成18年10月31日判決

(事案概要)
マンションの管理組合が、同マンション居室の持分二分の一を所有する者に対し、管理規約に基づき、同居室に関する滞納管理費等の全額の支払及びそれらに関する遅延損害金の支払を求めた。

(判旨)
マンションの1つの専有部分の区分所有権を共有する複数人が管理組合に対して負担する管理費等の支払義務は,専有部分の財産的価値,利用価値の維持,向上という各持分権者が共同不可分に受ける利益を得るための費用負担であるから,その性質上,金銭債務であっても,不可分債務であると解するのが相当であり,管理組合は共有者の1人に対し,その専有部分が単独所有であった場合にその単独所有者が負担すべき管理費等の全部を請求することができ,そのことは他の共有者に対して同じ管理費等の支払を命ずる判決が確定していても,その支払がない限り同様である」として、共有者に対する滞納管理費の請求を認めた。

裁判例2:東京高裁平成20年5月28日判決

(事案概要)
区分建物の共有者ら(持分10分の3及び持分10分の7)に対して、滞納管理費および修繕積立金等の請求をした事案

(判旨)
「本件の管理費及び修繕積立金のような金銭債務については,これを持分割合で分割し得るので,このような債務を分割債務ととらえるか,不可分債務ととらえるかが次に問題となる。この点については,区分所有者がマンション共有部分の管理費等の負担を負うのは,専有部分に通じる廊下,階段室等のマンション共有部分が,その有する専有部分の使用収益に不可欠なものであるということに由来するものと考えられるところ,区分所有権を共有する者は,廊下,階段室等のマンション共有部分の維持管理がされることによって共同不可分の利益(専有部分の使用収益が可能になること及びその価値の維持)を得ることができるのである。そうすると,区分所有権を共有する者が負う管理費等の支払債務は,これを性質上の不可分債務ととらえるのが相当である(なお,大審院昭和7年6月8日判決・大審院裁判例6巻179頁,大審院大正11年11月24日判決・民集1巻670頁等参照)。」として、共有者に対する滞納管理費等の請求を認めた。

1-2 共有者の持分割合は請求額に影響しない

マンション管理費が滞納されているとき、共有者による「自分の持分は少ないから、その分しか払いたくない」という主張は通用しません。

マンションの管理費は、所有者がどれだけ持分を持っているかにかかわらず、全額の支払い義務が共有者全員に生じます。

管理組合にとっては、請求の相手が誰であっても構わず、全額の回収が優先されます。

たとえ1割しか持っていない共有者であっても、支払い義務を負う点に変わりはありません。

管理費の請求は、あくまで「所有している」ことが前提であり、共有者の持分割合に関係なく責任が問われるというのが裁判例の考え方なのです。

1-3 共有者間の内部的な合意は影響しない

たとえば「管理費はAさんが全額払う」というような共有者同士の取り決めがあったとしても、管理組合に対してその合意は効力を持ちません。

マンションの管理費は、外部的には共有者全員に対して請求が可能であり、その内部合意があっても、組合は無関係です。

共有者間での話し合いは、あくまで内部の問題であり、第三者である管理組合はそれに縛られる必要がありません。

結局のところ、誰が払うかではなく、誰が所有しているかが管理費請求の鍵になります。

1-4 共有者間の約束や共有者間の事情に基づく主張は通用しない

「もう離婚してしまったので関係がない」とか「他の人が全部払う約束だった」という主張も、管理組合からすれば通用しません。

マンションの名義が共有のままであれば、たとえ離婚して別々に暮らしていても、管理費の請求対象には変わりありません。

支払い義務は区分所有マンションの所有に基づいて生じるものであり、個人的な事情や取り決めでは免れられないのです。

もしもマンション管理費の滞納が続けば、共有者全員が訴訟や差押えのリスクを背負うことになります。

2 滞納管理費回収の流れ:請求から法的措置、そして強制執行まで

マンションの管理費が滞納された場合、管理組合が泣き寝入りする必要はありません。

請求から最終的な強制執行まで、正当な手続きでしっかりと回収を目指すべきです。

2-1 まずは請求・督促から:内容証明郵便を活用する

管理費の滞納が発覚したら、最初に行うべきは丁寧な請求と督促です。

電話や書面で連絡しても反応がない場合、内容証明郵便を活用することで相手に強いプレッシャーを与えることができます。

これは、マンションの管理組合として正式な意思表示を行う手段であり、後々の法的手続きでも重要な証拠となります。

共有名義の場合、共有者全員に対して請求を行う場合もあるため、その場合には全員に対して全額を請求する通知書を送ることになります。

最初の一歩を確実に踏み出すことが、スムーズな回収への鍵となります。

2-2 管理費請求訴訟の提起

内容証明による督促を無視された場合、管理組合としては訴訟の提起を検討することになります。

マンションの管理費は共有者全員に支払い義務があるため、訴訟の相手方も共有名義人全員を被告として立てることもあり得ます。

これは滞納管理費の支払いが不可分債務であり「誰か一人が払えば済む」という性質のものではないからです。

訴状には滞納された期間や金額、管理規約に基づく請求理由を明確に記載し、きちんとした法的根拠を持って進めます。

ここでの準備がしっかりしていれば、裁判所も請求を認めやすくなります。

共有という形が複雑さを増す場面ですが、正攻法で対応することが大切です。

もっとも、法的な構成が間違えていたり、大事な主張や重要な証拠の漏れが生じてしまっていたりすると、裁判所も請求を認めない可能性も出てきますので、必ずプロの弁護士に依頼して訴訟に臨みましょう。

2-3 強制執行による滞納金回収

裁判で勝訴判決を得ても、それで終わりではありません。

実際に滞納管理費を回収するには、強制執行の手続きを取る必要があります。

判決に基づき、共有者の預金口座や給与、不動産、賃貸に出している場合には家賃収入などに対して差押えを行い、現実的な資金回収を目指すのが最後のステップです。

裁判での勝訴判決を基に、どのような方法であれば回収できるのかという点は、専門家である弁護士に任せて、最善の方法を実施するべきです。

3 滞納管理費の回収を弁護士に依頼するメリット

共有名義のマンションにおける管理費の滞納トラブルは、法律上も複雑になります。

そんなとき、専門家である弁護士に依頼することで、法的にも精神的にも大きなメリットが得られます。

3-1 法的手続きの確実性とスピード感のある対応

管理費の滞納が長引けば、マンション全体の運営に支障が出ます。

請求の通知、訴訟の提起、そして強制執行といった一連の流れを、弁護士に任せれば、法的な手続きを漏れなく、しかも迅速に進めることができます。

とくに共有名義の区分所有マンションでは、誰にどこまで請求するのかという判断も難しくなりがちです。

法的知識と実務経験を持つ弁護士であれば、手続きの無駄を省きつつ、的確に回収を目指してくれます。

結果として、管理組合が抱える不安や負担も大きく軽減されます。

3-2 共有者との複雑な関係整理にも対応可能

共有名義のマンションでは、管理費の請求先が複数存在するため、当事者間の人間関係が絡むと事態はさらにややこしくなります。

たとえば、持分割合の異なる複数人で所有しているケースや相続や売却で所有者が変わっているケースでは、誰が支払うのかを巡ってトラブルが生じやすいものです。

そうした複雑な共有関係の整理も、弁護士なら冷静かつ客観的に対応できます。

感情的な対立を回避しつつ、法律に基づいた請求を行うことで、スムーズな解決へと導くことが可能です。

3-3 マンション管理費の回収可能性が高くなる

弁護士を介して正式な請求を行うことで、滞納者に与える心理的プレッシャーは格段に高まります。

これは単なる請求ではなく、「法的措置が現実になる」という強いメッセージとして受け取られるため、支払いに応じる可能性が高まるのです。

さらに、弁護士が関与することで、訴訟提起や将来的な強制執行に向けた準備もスムーズに進められます。

回収の現実味が増すことで、結果としてマンションの管理費を取り戻せる可能性が大きく上がります。

単なる交渉とは違い、「本気度」を伝えるには弁護士の力が効果的です。

3-4 弁護士費用は滞納者に請求可能

通常のマンション規約においては、マンション管理費の滞納者に対して「違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用」を請求できると定めていることが一般的です(標準マンション規約参照)。

そのため、マンション管理費滞納者に対する請求を弁護士に依頼した際には、「違約金」として、実際に支出した弁護士費用も含めて請求を行うことができます。

すなわち、マンション管理組合は、マンション管理滞納者に対する請求にあたり、違約金としての弁護士費用も含めて請求することによって、実質的には弁護士費用の負担なく、弁護士に依頼することができるのです。

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