マンションの管理費滞納問題は、管理組合にとって深刻な課題ですが、滞納管理費の回収を弁護士に依頼する際には、弁護士費用がかかってしまいます。
そこで、管理組合としては、滞納者への請求を検討する際、弁護士費用も含めて請求できるのか、疑問に思われることでしょう。
本記事では、管理費滞納時に弁護士費用を請求することの可否や、過去の判例など弁護士の視点から詳しく解説します。
管理組合や管理会社が直面する問題解決の一助となる情報を提供しているので、管理費滞納への対応にお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
1:滞納管理費を請求する際に、弁護士費用も請求できるのか?
マンションの管理費が滞納された場合、管理組合としては迅速な対応が求められます。
しかし、弁護士を依頼すると費用がかかるため、その弁護士費用を滞納者に請求できるかどうかが問題となります。
法律的な根拠や裁判例を踏まえ、弁護士費用請求の可否について解説します。
1-1:滞納管理費の請求時に、弁護士費用も請求できる
マンション管理費が滞納されたとき、管理組合が弁護士を介して請求を行うケースは少なくありません。
管理費の請求を巡ってトラブルが発生すると、内容証明郵便を送ったり、裁判を起こしたりと、専門的な手続きが必要になります。
管理組合としては、滞納管理費を確実に回収するために弁護士へ依頼することが合理的です。
しかし、「管理費」と一緒に「弁護士費用」も滞納者に請求できるのか、疑問に感じる方も多いでしょう。
結論から言えば、滞納管理費と共に弁護士費用を請求することができるというのが裁判例の考え方になります。
ただし、弁護士費用がすべて認められるわけではなく、管理規約に基づく正当性や裁判所の判断が重要となることもあります。
したがって、管理組合としては事前に弁護士と相談し、どの範囲まで請求が可能かを確認しておくことが大切です。
1-2:弁護士費用を請求できる根拠
管理費の滞納回収で弁護士費用を請求できる根拠は、管理規約や裁判所の判断に基づきます。
原則として、債務不履行などに基づく金銭請求の場合、弁護士費用は自己負担となり、相手に請求することができないというのが一般的な考え方となります。
しかし、国土交通省が定めるマンション標準管理規約において、管理費等の滞納に基づく請求の際に、「違約金としての弁護士費用」をマンション管理組合が滞納者に対して請求することができると規定されているのが通常です。
なお、過去の裁判例では、その相当性に応じて、弁護士費用の全額請求が認められたケースと、一部のみが認められたケースがあります。
しかし、東京高裁平成26年4月16日判決で、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用について滞納者に対する請求を認めているので、基本的には、管理組合が実際に支出した弁護士費用全額の請求が認められるというのが裁判例の考え方と言えます。
1-3:請求可能な弁護士費用の範囲:実費相当額
弁護士費用を請求できるとしても、その範囲が問題になり得ます。
前述したように、裁判所の判断基準としては、実費相当額が認められる傾向にあります。
裁判例の中では、弁護士費用として裁判所が認める相当額とするもの(東京地裁平成19年7月31日)もあれば、実費相当額を認めるケース(東京地裁平成18年5月17日)もあるという具合に判断が分かれていました。
しかし、東京高裁平成26年4月16日の判決では、管理費回収のためにかかった弁護士費用は実費相当額を支払うべきという考え方が示されているので、この高裁判決がある以上、実費相当額が認められる可能性が高くなっていると言えます。
マンション管理組合としては、念のために管理規約を適切に整備しておくことが重要です。
実費相当額が請求可能であることを明記することで、滞納管理費を回収する際に負担を軽減できるからです。
管理規約の文言については弁護士に相談しながら決定することで、トラブル予防に繋がりますので、弁護士に相談してみてください。
2:新所有者にも弁護士費用の支払義務が引き継がれる
マンションを購入する際、前所有者が管理費を滞納していた場合、その支払義務が新所有者に引き継がれます。
これは、管理費がマンションの維持管理に必要な費用であり、区分所有法第8条で定められているからです。
区分所有法第8条
「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」
特定承継人とは、つまり区分所有のマンションを売買等によって引き継いだ新所有者を指します。
区分所有法第8条により、管理費滞納が発生している場合、たとえ所有者が変わっても、その滞納分を特定承継人である新所有者に請求できることになります。
そして、管理費回収のために弁護士を依頼していた場合、その弁護士費用の支払義務も新所有者に引き継がれて、管理組合は新所有者に対して、前所有者の滞納管理費と弁護士費用を請求することができると考えられています。
そのため、例えばマンション管理費の滞納者が管理費や弁護士費用を支払うことなく、区分所有マンションを第三者に売却した場合、その後、管理組合は滞納管理費だけでなく弁護士費用も新所有者(特定承継人)へと請求することを考えるべきです。
3:滞納後に規約を変更した場合であっても弁護士費用の請求は可能
マンションの管理費が滞納された後に、管理組合が管理規約を変更し、弁護士費用を請求できる条項を新設した場合でも、その弁護士費用を滞納者に請求できると考えられています。
実際に、東京地方裁判所平成24年5月29日判決では、訴訟提起後に管理規約を変更して弁護士費用を請求できるようにしたケースでも、口頭弁論終結時に請求根拠が存在すれば十分と判断し、弁護士費用の請求を認めました。
つまり、たとえ管理費滞納後に規約を改正して弁護士費用を含めたとしても、その変更が合理的であり、かつ裁判中に有効化されていれば請求が認められる可能性が高いといえます。
管理組合としては、少しでも滞納管理費や弁護士費用の回収を図るべく、管理費が滞納された場合にはすぐに弁護士に相談して、対策を練っておくべきです。
4:滞納管理費の請求を弁護士に依頼するメリット
マンションの管理費が滞納された場合、管理組合として迅速かつ適切な対応が求められます。
しかし、法的な知識や手続きの煩雑さから、回収が難航するケースも少なくありません。
そこで、弁護士に依頼することで、管理費滞納問題を効果的に解決できるメリットがあります。
4-1:法的手続きが確実でスムーズになる
管理費の滞納問題を解決するには、管理組合としてまず適切な請求を行い、場合によっては訴訟を提起し、さらに強制執行を検討する必要があります。
しかし、これらの手続きには法的知識が欠かせません。
弁護士に依頼すれば、内容証明郵便の作成から訴訟手続き、強制執行まで一貫してプロが対応します。
弁護士が間に入ることで、法的根拠を明確に示しながら冷静に対応できるため、相手方も支払いに応じやすくなります。
法的手続きをしっかり進めることで、管理組合としての責任を果たし、他の住民からの信頼も確保できます。
4-2:回収可能性が高くなる
弁護士に依頼することで、管理費の回収率が向上するケースが多く見られます。
これは、弁護士からの請求が法的措置を示唆しているため、滞納者にとって心理的なプレッシャーが強まるからです。
管理組合が個人で請求するよりも、専門家の介入によって「本気度」が伝わり、支払いに応じやすくなります。
また、弁護士は滞納者の財産調査や差押えの手続きも専門的に行えるため、管理費の回収可能性が一気に高まります。
マンション管理組合としては、長期間の滞納が続くと財政に大きな影響を及ぼすため、弁護士を活用して確実に回収を目指すことが得策です。
回収が成功すれば、他の住民にも公平性を示すことができ、管理体制の信頼向上にもつながります。
4-3:弁護士費用を管理費と一緒に請求できる
管理費の回収に際して、弁護士費用がかかることを懸念する管理組合も多いですが、場合によってはその弁護士費用も滞納者に請求できます。
ここまで説明してきた通り、弁護士に依頼して実際に支出した弁護士費用は、最終的には滞納者から回収することになりますので、実質的には負担がないとも言えます。
ただし、管理組合としては、あらかじめ規約を整備し、弁護士費用の請求根拠を明確にしておくことが求められます(マンション標準管理規約では「違約金」として請求できるとされています。)。
弁護士に依頼することで、法的手続きを確実に進められるだけでなく、費用回収も含めてトータルで対応できる点が大きな魅力です。
管理費滞納が発生した際には、専門家の力を借りて早期解決を図りましょう。
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